AGA(男性型脱毛症)に悩む多くの男性が抱く最大の疑問、それは「AGAは本当に治るのか」という点に尽きるでしょう。インターネット上には「これで完治した」「フサフサに戻った」という体験談が溢れていますが、医学的な観点から誠実に答えるならば、その答えはイエスでもあり、ノーでもあります。この曖昧さは、「治る」という言葉の定義が、患者側と医師側で微妙に食い違っていることから生じています。一般的に私たちが病気が「治る」と言うとき、それは風邪や怪我のように、治療によって症状が消え、その後は薬を使わなくても健康な状態が続く「完治」をイメージします。しかし、AGA治療において医学が目指す「治る」は、少し意味合いが異なります。AGAは進行性の疾患であり、その根本原因には遺伝的な体質や加齢によるホルモンバランスの変化があります。残念ながら、現代の医学では遺伝子そのものを書き換えることはできません。したがって、薬を飲んで髪が生え揃ったとしても、それは「完治」したわけではなく、薬の力によって薄毛の進行を抑え込み、発毛を促している「コントロールされた状態」に過ぎないのです。高血圧や糖尿病などの慢性疾患と同じように、治療を継続することで症状が出ない状態を維持する、いわゆる「寛解(かんかい)」に近い状態と言えるでしょう。この現実を理解せずに「数ヶ月薬を飲めば元通りになり、その後は何もいらなくなる」と考えて治療を始めると、後に「話が違う」と落胆することになりかねません。しかし、これを悲観的に捉える必要はありません。「完治」はしなくとも、適切な治療を行えば、見た目を劇的に改善し、第三者からは薄毛であることが全く分からないレベルまで回復させることは十分に可能です。多くの患者さんが、治療開始から半年から一年程度で明らかな発毛を実感し、かつての自分を取り戻しています。医学的なゴールは「薬なしで平気になること」ではありませんが、実質的なゴールである「薄毛の悩みから解放され、自信を持って生活できること」は、現在の標準治療で十分に達成可能なのです。